2018年度付中通信第14号 学園創立120周年

2018.11. 2  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

今年度当初に、学園創立120周年記念誌の制作委員会を立ち上げ、法人当局が中心になって地道な編集作業を続けています。進捗状況は、決して良好とはいえませんが、それでもなんとか前に進んで、最近になってようやく目鼻がついてきました。編集方針の大本にあるのは、創立百周年以降の20年間を高水の新世紀への歩みと捉え、そこに焦点を当てて、今一度関係者とともに振り返ってみられる記念誌にしたいということです。

実は、私自身が本学園に着任し、今年でちょうど丸30年が経ちました。すると、今思えば百周年というのは、ちょうど私が着任してから10年目となります。恩師の一声で東京から高水に帰ってきた時、私はちょうど30歳でした。つまり、40歳の時が学園百周年となり、教員生活を振り返ると、最も元気があって、中堅として今後の学園はどうあるべきか、若いなりにいろいろと悩み、葛藤していたことを思い出します。

完成した記念誌をご覧になれば、はっきりとわかると思いますが、この20年間で何がいちばん変わったかといいますと、それはやはり、学園が地域や世界に向けて大きく開かれていった時代と総括してよいのではないかと思います。

ユネスコスクールの認定を受け、一応このスクール同士の交流という形で、ともかく学園は世界の大きくて大切な思想を他校と共有する学校となりました。この過程で、文化祭は公開され楽学祭となり、国家的な事業の一つを依頼されたことを契機に、カナダとオーストラリアに姉妹校を持てました。今、交換留学が軌道に乗りつつあります。

およそ、こんな20年間を、誰があの百周年の日に想像できたことでしょう!

2018年度付中通信第13号 スピーチコンテスト

2018.10.15  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

今年の高円宮杯山口県地区予選会で、本校生徒が1位2位を独占、強豪ひしめく県大会に歩を進めた。優勝は過去18年間に6度あったが、準優勝までさらってきたことはない。そういう意味でたいへんな快挙であった。

いわゆる英語の4技能とは、読む、書く、聞く、話す、というおよそ語学を習得するためには必要不可欠の4つの技能を指している。

しかし、何故今さらこの当たり前のことが声高に叫ばれるようになったかと言えば、従来の学校教育においては、読む(何が書いてあるのかわかるようになる)ことにものすごく重点が置かれ、他の3つ、中でも話す、は特別に軽視されてきたからだ。

誰が考えても明らかなように、言葉について、生活上もっとも有益な能力は言うまでもなく、話す、に決まっている。

聞く、はセンター試験にリスニングテストが採用されてから少しは事情が変わってきていたし、書く、は国公立大の2次試験では出題されてもいたから、入試突破のためにも、それなりに生徒も教師も頑張ってきた。だが、入試が変わらないから、話す・書くに時間を割いてはいられなかった。

だが、もう後には引き返せない。英語教師は4技能をバランスよく指導しなければならないし、その環境作りに、挙校体制で臨まねばならない。

あとは、2020年度から始まる新大学入試、いやその先に待っているグローバル社会で自由にコミュニケーションできる日本人の養成を目指して、まっすぐに進んでいくばかりである。

2018年度付中通信第12号 卒業生リレーエッセイ

2018.10.2  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

学園の120周年記念事業の一環として昨年9月から、中国新聞の防長路というコーナーに「天空高き」と題するコラムが連載された。卒業生コラムと称し、7か月間にわたる連載シリーズに高水学園の卒業生14名が登場した。

これまた古い話だが、学園の歴史は明治31年まで遡るゆえ、卒業生の数も優に25000人にも達し、戦前の卒業生の多くはすでに鬼籍となっている。この連載を始めるにあたり寄稿をお願いした方の中で最年長者は鄭忠錫氏。氏はこの通信でも以前紹介した、戦前に韓国から日本に留学した396名の中の一人である。1944(昭和19)年卒、御年92才。韓国留学生中唯一今も元気に活動されている。

そして最年少は、二十歳の慶応大文学部在学中の好中奈々子氏だ。好中氏は高校在学中、全国規模の作文コンクールで何度も最優秀となり、海外研修旅行の副賞をこれまた何度も手にした。私が関わった卒業生中、そういう意味では最強だった。思いは尽きない。

 

2018年度付中通信第11号 感動の9月

2018.9.15  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

9月は楽しい。なぜなら感動のシーンにたくさん出会えるからだ。運動会然り。楽学祭然り。

しかし、生徒らは大変だ。感動には苦労がつきものだから。でもその苦労も感動がすべてかけがえのない思い出に変えてくれるから、本当は苦労なんてものも楽しさの中の一コマに過ぎなくなる。そして苦労が大きければ大きいほど感動が大きいことを体験させることが、われわれ教師の一番大切な役割である。

以下、「楽学祭」パンフの中校長挨拶文からの引用です。

”Tenth anniversary.”

楽学祭開催おめでとうございます。

今年は記念すべき10回目の楽学祭となります。

10年ひと昔、と言います。ですが、私にとって10年前にこの楽学祭を立ち上げた生徒諸君の情熱と覚悟は、今もそしてこれからも絶対に忘れることができない記憶の一つです。平成21年第1回楽学祭実行委員長の神尾 徹くんが、学校HPに掲げた文章を抜粋します。

―僕たち文化祭実行委員会は、今年の2月から活動を始めました。実際に生徒の前に出たのは6月のことでしたが、それまでの4か月間どうやって文化祭を形づくっていくか模索を続けていました。一から文化祭を変える、ということは思っていたよりずっと難しく手探りの状態で進めていかなければなりません。(中略)ですがみんなが文化祭をよくしたい、という固い意志のもとで日々精力的に活動を行っています。僕は文化祭の成功しだいで、これからの学校生活も大きく変わっていくと思います。だから生徒一人一人が自主性を持ち、大勢の人に拍手を受ける経験が持てるような文化祭を作っていきたいです。―

最後に末川 博先生の言葉を紹介します・・・『理想・志・夢が未来を拓(ひら)く』と。

2018年度付中通信第10号 科学の甲子園ジュニア

2018.9.1   高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

中学1、2年生を対象とした第6回「科学の甲子園ジュニア」山口県大会が、8月25日、山口市秋穂の県セミナーパークで開催され、本校チームが準優勝となり、昨年度(優勝)に引き続き、今年度も全国大会への切符を手にしました。

大会は1チーム3名で戦うもので、知識や技術だけでなく仲間同士のチームワークも試されます。今年は県内14校から75人、計21チームが出場し、日頃の科学教育の成果を競いました。

本校からは2年生2チーム、1年1チームが出場し、2年生チームがみごと2位に輝きました。1年生チームも総合で13位と健闘を見せました。

優勝を飾った2年生の池本佳希さん、河村慎太郎さん、村上翼紗さんの3名は、12月7日からつくば市で開催される全国大会に、今回優勝の周陽中チーム3人と新たに6人のチームを結成し、出場することになりました。

実は、昨年度は池本くん率いる1年生チームが、1年生ながら初優勝を本校にもたらし、大評判となりましたが、まぐれとの悪評もあって、校長としてはなんとしても入賞して欲しかったのです。

昨年度の池本くんの「筆記でも実技でもうまく協力できた」との言葉が、今もしっかり記憶に残っています。仲間づくりの一つの成果として、本校教員にとっての最高の誉め言葉でした。

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2018年度付中通信第9号 地域が子どもを育てる

2018.8.15  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

前回に引き続き、新学習指導要領がらみの話題です。

「アクティブ・ラーニング」型授業、文科省の言う「主体的・対話的で深い学び」=学び方改革に教育界では注目が集まっていますが、もう一つの大きな変化は、「社会に開かれた教育課程」という理念です。「よりよい学校教育を通じてよりより社会を創る」という目標を学校と社会が共有し、両者が連携・協働して子どもたちに必要な資質・能力を育むことを意味しています。

そんなことを、今さら大げさに、と思われるかもしれませんが、学校社会は、理念としてわざわざ掲げなくてはならないくらい、社会に開かれていない社会なのかもしれません。ちなみに山口県の小中学校のコミュニティースクールの加入率はなんと100%に達し、地域と学校が協働して子どもたちを育てていこうというこの県の取り組みが全国的に有名なことはご存じですか。

私は自分自身が居住する地域社会で、もうかれこれ15年間にわたって「地域が子どもを育てる」というコンセプトの下、仲間と一緒に地域の小中学校を地域の活性化を推進する軸において活動してきました。小学生をこの活動(わかりやすく言うと村おこし、かな)に引き込むと、その保護者にも参加してもらえるし、さらにその上の世代のおじいちゃんおばあちゃんにも声をかけやすくなります。ここでは学校が地域を求めるのではなく、地域が学校を求めるという方向で私たちは多くの仲間を得てきました。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、「地域で子どもを育てる」のではありません。「地域が」というところに、実は地域でないと子どもは育てられないというメッセージがありました。文科省もまだこの点には気づいていないでしょうね。

もちろん、私のことですから、本校からは高校生を中心にずっとこの活動にいざなってきました。地域の人々と高校生が交流し一緒に活動する、そんな取り組みを先輩から後輩へと受け継がせる、それが私の15年間にわたるチャレンジとなっていました。

2018年度付中通信第8号 共通テストの闇

2018.7.30  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

学校現場、特に高校課程においては、2020年度から始まる新しい入試に対応することと「アクティブ・ラーニング」型授業がどのように結びつくのか、理解できている教員はほとんどいないと思う。なぜなら、文科省の言う「主体的・対話的で深い学び」によって学び方を変えていきたいという意図はわかるものの、その成果がどのように試されるのか、想像が及ばないからである。だから実際の「大学入学共通テスト」の出題を見てから、「アクティブ・ラーニング」型授業の内容や形式を検討すべきだという意見は依然根強い。つまり今はまだ様子見で、本格的に研究にとりかかるのは早計だという考え方である。現場はかくのごとく混乱している。

学習指導要領は10年ごとに改訂され、これまでにも新しい考え方や活動が導入されるたび、教育課程を見直したり土曜日が休みになったり、いろいろな変化が起こってきたけれど、この度の混乱はレベルが違う、まさに明治以降最大の変革と言ってよい。第2次世界大戦後に日本では墨塗り教科書が使用されたが、あの時は学ぶ内容の改革であったのに対し、この度はそれと同じ規模で学び方の改革が進んでいると思えばよいだろう。

そこで私は考えるのだが、そもそも「大学入学共通テスト」のような、答えが1つに集約される形式のテストでは、結局のところ学び方改革の成果を直接図ることは難しいという結論である。つまり「共通テスト」という選抜の形式では、「主体的・対話的で深い学び」という生徒が身につけた学びの態度を測ることは困難だということである。

そうなると、大学入学選抜において考えられる作戦は1つしかない。知識量や応用力を測る「共通テスト」のウエイトは限りなく少なくして、面接や小論文、ディベート、プレゼン、活動履歴等「主体的・対話的で深い学び」によって身につけたスキルを測ることに比重を置いた選抜に変えていくしかない。

つまり、「大学入学共通テスト」をあまり意識しすぎると、当局の比重のかけ方によっては足元をすくわれ兼ねないということだ。

2018年度付中通信第7号 楽学フェスタ

2018.7.15  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

「オープンスクール」という名称で本校が校内活動の様子を初めて小学生や保護者に公開したのは、平成19年度のことだった。奇しくも、その年から数えて11年目にあたる今年、昨年までのオープンスクールの内容を一新、「楽学フェスタ」として開催することになった。

今年の「楽学フェスタ2017」は、「家族で感じる高水体験」をコンセプトに、参加対象を小1から小6までに拡大した。「保護者」、「5・6年生」、「4年生以下」の3つのパートに分け、それぞれのパートに最適な体験コーナーを設ける、いわゆる複線型のプログラム構成によって、家族全員が楽しく学べるように工夫を凝らした。

6・7・8月に1回ずつ計3回を計画した。各回100名以上の参加者を集めることを目標に、考えられる限りの広報活動も行ってきた。その努力の甲斐あってか、6月の第1回は120名近い参加があり、とりあえず目標を突破できた。

明日は、第2回。第1回と異なり、参加者には在校生の授業に参加してもらう趣向だ。5教科それぞれ学年の枠を取り払った形式で授業を実施する。そこに小学生が入ってくるわけであるから、校長としてもなかなか興味深い展開になりそうで、大注目である。

明日の申込人数も、予想をはるかに上回り150名に達する勢いだ。この勢いは、実は教師たちの頑張りによるだけのものではない。つまり在校生たちがフェスタを引っ張ってくれているのだ。11回目にして、私は初めて在校生と一体化した取り組みになったと感激している。

たぶん、あれは愛校心というものに相違ない。

 

2018年度付中通信第6号 コミュニケーション能力

2018.6.30  高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

人は一人では生きてはゆけない。人は社会を前提に生活を営むことができる。だから人は心を閉ざしたままでは生きてはゆけない。ただ、心を閉ざしがちの人や言葉少なの人を軽んじたり見くびったりしてはいけない。この世にはいろいろな人がいて、私たちには未知なるコミュニケーションの方法を使い、特殊な環境の人々と交流できる人も中にはいるかもしれない。また、民族や習俗や宗教が異なれば、人に説明不可能な理由によってコミュニケーションそのものが禁忌として扱われ、懲罰の対象になることさえある。私たちは、コミュニケーションひとつとってもそのくらい幅のある多様性社会を生きている。

しかし、そういう社会の中で、私たちはコミュニケーション能力の必要性をことあるごとに説いている。いかなる職業に就くにしても、もっとも要求される能力がコミュニケーション能力だと言われている。もちろん、学校教育の中でもこのコミュニケーション能力の育成をとみに意識して、グループ活動を活発化させたり、人前で発表させたり、様々なシーンで会話と交流の機会をたくさんつくり出そうと努力している。

ではいったいどういう状態が或いはどういう人が、コミュニケーション能力が高いと言えるのだろうか。その疑問について考える時、すぐに思い出すのが、5年前に開催されたユネスコ子どもキャンプin岩国での高校生スタッフの大活躍である。全国から集まった110名以上の子どもたちを、同じく全国から集まった60名に及ぶ青年たちが指導する。核となった岩国ユネスコ協会の青年部は、3泊4日の一生忘れられない体験をと、1年がかりでプログラムを準備し、練習を積んだ。そのプログラム進行役に本校の高校2年生が抜擢され、大人もむずかしい大役に挑戦した。

まずは度胸が必要だ。子どもたちを前に手本を示さねばならない。そしてわかりやすく、大きな声で説明ができなければならない。さらにお互いに、或いは他の係りの者たちと上手く情報交換ができなくてはならない。でもいちばん大事なことは、心を閉ざしがちな子どもたちとも一緒にキャンプをつくれる能力だ。

それは、結局、話し方や内容の問題ではなくて、こちらから相手に向かって話しかける力、アプローチの問題だ。畢竟、コミュニケーション能力とは相手から言葉を引き出す能力の謂いだ。

2018年度付中通信第5号 付中入試

2018.6.15 高水高等学校付属中学校長 宮本 剛

付中入試について、今年度の初めから校内委員会を中心に活発な議論を戦わせている。その議論の中で、私たちがいちばん悩むのは、入試改革は結局私たちがどんな学校を作りたいのかという問題提起となってしまうということだ。入試はここで学んでほしい生徒を選ぶ取り組みなのだから、当然ここで私たちはどんな教育がしたいのかという前提がなければならない。

何をいまさらとおっしゃる向きもあるかと思うが、考えてみてほしい。日本という国家においても、3年後には大学入試制度が抜本的に変わるのである。それはなぜかと言えば、今の入試制度では現実社会に対応できないからではないか。今ある社会、さらに言えば未来の社会に対応できる教育を学校が担えるように、大学は本気になって教育内容を吟味し直しているのだ。それは、本校とて自前で議論し、答えを出さねばならない課題なのである。

お手本はすでに文科省が新しい学習指導要領で示している。「主体的・対話的な深い学び」というフレーズが今回のキイワードだが、問題はこのような学びに適した生徒をどう選抜するかということである。12歳の子どもたちのどこをどう試したらよいのか?

不易流行というが、私学にとっての不易は建学の精神や校訓などに示されている。だからたぶん不易について選抜という疑念は必要ない気がする。必要を感じるのは流行の部分だ。「主体的・対話的な深い学び」も国の教育の流行と言っていいだろう。ではわが校の流行は何か。国の方針も内包しつつ、国よりももっと先を見つめ、祈りを込めた教育の方針があり、その内容が考えられねばならない。